『アリオン』がもっと面白くなる!

ヘラクレス ギリシア神話中最大の英雄

『アリオン』の紹介記事で、作品に登場するギリシア神話の神々を中心に作品の元ネタになっている(と思われる)神話を紹介しました。

ここでは、ヘラクレスの紹介のつづきで、「12の功業」について紹介します。

『アリオン』では”ちょい役”的存在ですが、ギリシア神話では面白いエピソードが盛りだくさん!
前述の記事では紹介しきれなかった彼の物語を紹介します。

さらに、『ギリシア神話』をサクッと知りたい方へ、記事の最後にオススメのマンガ・書籍も紹介しています!

ヘラクレスの12の功業

ヘラクレスはテーバイを助けてオルコメノスの軍と戦い、勝利する。
テーバイ王のクレオーンは娘メガラーを妻としてヘラクレスに与え、二人の間に3人の子供が生まれた。
しかし、ヘラがヘラクレスに狂気を吹き込み、ヘラクレスは我が子を炎に投げ込んで殺してしまう。

正気に戻ったヘラクレスは、罪を償うためにデルポイに赴き、アポロンの神託を伺った。
神託は「ミュケーナイ王エウリュステウスに仕え、10の勤めを果たせ」というものだった。
ヘラクレスはこれに従い、本来なら自分がなっているはずのミュケーナイ王に仕えた。

エウリュステウスがヘラクレスに命じた仕事は次の通り。

1. ネメアーのライオン退治

不死身の獅子がネメアーという谷に棲み、近隣の人や家畜を殺していた。獅子はテューポーンエキドナとの子だった。
弓矢は効果がなく、ヘラクレスは棍棒を使って獅子を洞窟へと追い込んだ。そこで洞窟の入口を大岩で塞いで逃げられないようにし、三日間の格闘の末に絞め殺した。この獅子は後にしし座となる。
あらゆる武器を弾く毛皮は獅子の爪で加工され、彼はその皮を頭からかぶり、鎧として用いた。
これから獅子が英雄のシンボルになった。

ネメアーの獅子と戦うヘラクレス。ピーテル・パウル・ルーベンス作。マサチューセッツ州ケンブリッジ、フォッグ美術館所蔵。 (Wikipedia「ネメアーの獅子」)

2. レルネーのヒュドラー退治

ネメアーの獅子と同じく、ヒュドラーもテューポーンとエキドナの子で、ヘラクレスの力を試すためにヘラが飼い育てたという。
レルネーの沼に住み、巨大な身体に9つの頭(5〜100の頭と諸説あり)を持った水蛇で、触れただけであらゆる生き物を絶命させる猛毒を持っていた。
ヒュドラーの首を切ると、そこからさらに2つの首が生えてきて、しかも真ん中の頭は不死だった。
従者のイオラオス(双子の兄弟イピクレスの子)が、切り口を松明の炎で焼いて新しい首が生えるのを防いだ。
ヘラクレスは最後に残った不死の頭は岩の下に埋め、ヒュドラーを退治した。ヒュドラーはうみへび座となった。
また、ヘラクレスはヒュドラーの猛毒を矢に塗って使うようになった。
この戦いで、ヘラがヒュドラーに加勢させるべく送り込んだ巨大な化け蟹は、ヘラクレスに踏みつぶされた。蟹はその後かに座となる。

エウリュステウスは、イオラオスの助けがあったことを口実に、功績を無効としたため、功業が1つ増えた

ギュスターヴ・モロー画『ヘラクレスとレルネのヒュドラ』(1876年) シカゴ美術館所蔵。(Wikipedia「ヒュドラー」)

3. ケリュネイアの鹿

アカイア地方のケリュネイアの鹿(牝鹿)はアルテミスの聖獣で黄金の角と青銅のひづめを持っていた。
5頭のうち4頭はアルテミスに生け捕られ、女神の戦車を引いていたが、最後の1頭の鹿は狩猟の女神をもってしても捕らえる事ができないほどの脚が速かった。
女神から傷つけることを禁じられたため、ヘラクレスは1年間追い回した末に鹿を生け捕りにした。
その後この鹿はアルテミスに捧げられ、他の4頭とともに戦車を牽くこととなった。

ケリュネイアの鹿を捕らえるヘラクレス。左はアテナ、右はアルテミス。紀元前540 - 530年頃(Wikipedia「ケリュネイア」)

4. エリュマントスの猪の生捕り

エリュマントス山に住む大猪を生け捕りにする仕事。ヘラクレスは大声で叫びつつ猪を茂みから追い出し、罠に追い込んで生け捕りにした。

猪を生捕りに行く途中、ヘラクレスはケンタウロスポロスに歓待された。
食事のとき、ポロスがディオニュソスから預かった酒をヘラクレスが無理やり開けさせた。ケンタウロス一族の共有する酒だったことから、殺傷沙汰のケンカになった。争いの中、ヘラクレスの放ったヒュドラーの毒矢が、誤って武術の師であるケイローンの膝に刺さった。ケイローンは不死の力を与えられていたが、毒の苦しみに耐えきれず、不死の力をプロメテウスに譲渡して死を選んだ。
ケイローンの不死の力を受け入れてもらうために、ヘラクレスがカウカーソス山に磔にされていたプロメテウスを解放したとされる(※)。この後、ケイローンの死を惜しんだゼウスは、彼をいて座にした。
※プロメテウスはもともと不死身であるが、他の不死の者が、彼のために不死を放棄すると申し出れば解放される条件だった。

ケルベロスをエウリュステウスに見せるヘラクレス。エウリュステウスは真鍮製の巨大な甕に隠れている。紀元前525年頃。ルーブル美術館所蔵。(Wikipedia「エリュマントスの猪」)

5. アウゲイアースの家畜小屋

エーリスアウゲイアースは3000頭の牛を持ち、その牛小屋は30年間掃除されたことがなかった。
ヘラクレスはアウゲイアースに「1日で掃除したら、牛の10分の1をもらう」という条件を持ちかけた。アウゲイアースはその話を信用しなかったが承知した。
ヘラクレスは川の流れを強引に変えて、小屋に引き込んで30年分の汚物をいっぺんに洗い流した。
エウリュステウスは、罪滅ぼしなのに報酬を要求したとして(川の神の力を借りたため、とする説もある)これをノーカウントにしたため、さらに功業が1つ増えることとなった
また、アウゲイアースは報酬の約束を反故にしたので、ヘラクレスは後にアウゲイアースを攻略した。

6. ステュムパーリデスの鳥退治

無数のステュムパーリデスの鳥の群れが森に棲みつき、近隣の田畑を荒らしていた。この鳥は、翼、爪、くちばしが青銅でできていた。
ヘラクレスは鳥を驚かせて飛び立たせ森から追い出すため、ヘファイストスからとてつもなく大きな音を立てる鉦(彼の工房のキュクロープス達の目覚まし用)を借り、音に驚いて飛び立ったところをヒュドラーの毒矢で射落とした。または、矢が効かないので彼に襲い掛かってくるところを、1羽ずつ捕らえて絞め殺したとも言われている。

7. クレータの牡牛

クレータ島の王ミノスを懲らしめるため、ポセイドンが送り込んだクレータの牡牛を生け捕りにした。この牡牛はミノタウロスの父親であり、美しいが猛々しく、極めて凶暴であった。最初、ヘラクレスはミノス王に協力を求めるが拒否され、結局素手で格闘してこの牡牛をおとなしくさせ、アルゴスまで連行した。

クレータの牡牛とヘラクレス。ヘラクレスは縄で牡牛の足を縛ろうとしている。イタリア、ヴルチから出土した紀元前510年頃のアッティカ黒絵式アンフォラ。ミュンヘン、州立古代美術博物館所蔵。(Wikipedia「クレータの牡牛」)

8. ディオメーデースの人喰い馬

ディオメーデースは、トラーキア王ディオメーデースはアレースの子で、旅人を捕らえて自分の4頭のに食わせていた。

シケリアのディオドロスによれば、ヘラクレスはディオメーデースを逆に馬に食わせて、おとなしくなったところを生け捕りにしたという。
アポロドーロスによれば、ヘラクレスが馬を奪った後にディオメーデースが軍勢を率いて馬を奪還しようとしたため、ヘーラクレースは従者の少年に馬の番をさせて戦いに出かけた。ディオメーデースを討ち取って帰ってくると、少年は馬に食い殺されていたという。

ギュスターヴ・モロー『自らの馬に喰い殺されるディオメデス』1865年 ルーアン美術館所蔵。(Wikipedia「ディオメーデースの人食い馬」)

9. アマゾーンの女王の帯

アマゾーンの女王は、第一人者の証としてアレースの帯を持っていた。
エウリュステウスの娘アドメーテーがアマゾーン女王ヒッポリュテーのそれを欲しがり、ヘラクレスは手に入れてくるように命じられた。ヘラクレスはアマゾーンとの戦いになると考え、テーセウスらの勇士を集めて敵地に乗り込んだが、ヒッポリュテーは強靭な肉体のヘラクレス達を見て、自分達との間に丈夫な子を作ることを条件に帯を渡すことを承諾した。
ところがヘラがアマゾーンの一人に変じて「ヘラクレスが女王を拉致しようとしている」と煽ったため、アマゾーン達は武装してヘラクレスを攻撃した。ヘラクレスは最初の甘言は罠であったと勘違いして、ヒッポリュテーを殺害して腰帯を持ち帰った。

ヘラクレスと戦うアマゾーン。アッティカのアンフォラ。紀元前530〜520年頃。(Wikipedia「アマゾーン」)

10. ゲーリュオーンの牛

ゲーリュオーンは無数の牛を飼っている怪物で、メドゥーサがペルセウスに殺されたときに血潮とともに飛び出したクリューサーオールの息子だった。
大洋オーケアノスの西の果てに浮かぶ島エリュテイアに住んでおり、常人は行き着くことができなかった。
アフリカに行き着いたヘラクレスが太陽の熱気に怒り、太陽神ヘーリオスに矢を射掛けたため、ヘーリオスはその剛気を感嘆して、彼がオーケアノスを渡るときに使用している黄金の盃を貸し与えた。
エリュテイアでは双頭の犬オルトロスが牛を守っていたが、ヘラクレスはオルトロスや牛の番人を棍棒で打ち殺して、牛の群れを奪った。
ヘラクレスは牛を奪い返さんと追ってきたゲーリュオーンを射殺した。

ヘラクレスと闘うゲーリュオーン。E群のアンフォラ。紀元前540年ごろ。ルーヴル美術館蔵。(Wikipedia「ゲーリュオーン)」

ヘラクレスは帰途、アトラス山を登らずに近道をしようと山を砕いた。その結果、地中海と大西洋がジブラルタル海峡で繋がった。海峡の両岸に残った山が「ヘラクレスの柱」と呼ばれるようになった。

「ヘラクレスの柱」

11. ヘスペリデスの黄金の林檎

ヘスペリデスの園にはゼウスがヘラと結婚した時にガイアが贈った果樹園があった。
ヘラクレスは、その果樹園から黄金の林檎を取ってくるように命ぜられた。
場所を知らないヘラクレスは、水神ネーレウスに聞けば良いと教えられ、彼の寝込みを襲った。ネーレウスは怪物や水、火などに変身して逃れようとしたが、ヘラクレスが捕らえて離さなかったため、やむなく場所を教えた。
黄金の林檎は百の頭を持つ竜ラードーンが守っていたが、ヘラクレスはこれを倒して林檎を手に入れた。ラードーンは、りゅう座となった。

一方アポロドーロスは全く異なる伝説を伝えている。
ヘラクレスは、カウカーソス山に縛り付けられていたプロメテウスを救い出して、助言を請うた。プロメテウスは「ヘスペリデスはアトラースの娘たちだから、アトラースに取りに行かせるべきである」と答えた。アトラースは神々との戦いに敗れ、天空を担ぎ続けていた。ヘラクレスがアトラースのところに赴き、ヘラクレスが天空を担いでいる間に林檎を取ってくるよう頼むと、アトラースはこれに従い林檎を持ち帰った。しかし、再び天空を担いで身動きできなくなるのを嫌って、自分が林檎をミュケーナイに届けると言い出した。ヘラクレスは一計を案じ、頭に円座を装着してから天空を支えたいので少しの間天空を持っていてほしいと頼んだ。承知したアトラースが天空を担いだところでヘラクレスは林檎を取って立ち去った。

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12. 地獄の番犬ケルベロス

最後の仕事として、エウリュステウスはヘラクレスに冥界の番犬ケルベロスを連れてくるように命じた。
オルトロスと同じ、ゲーリュオーンで牛の番をしていた一匹で、3つの頭を持つ犬の化け物だ。ヘラクレスは冥界に入ってハデスに申し出ると「傷つけたりしないで捕らえるならば」という条件で許可をもらい、ケルベロスを生け捕りにした。
冥界では、ペルセポネーを略奪しようとして「忘却の椅子」に捕らわれていたテーセウスペイリトオスを助け出した。また、メレアグロスの霊が現れて自分の最後を語り、ヘラクレスはその哀れさに涙して、彼の妹のデーイアネイラを妻にすると約束した。
地上に引きずり出されたケルベロスは太陽の光を浴びた時、狂乱して涎を垂らした。その涎から毒草のトリカブトが生まれたという。
ヘラクレスはケルベロスをエウリュステウスに見せ、再び冥界に連れ帰った。

ケルベロスをエウリュステウスに見せるヘラクレス。エウリュステウスは真鍮製の巨大な甕に隠れている。紀元前525年頃。ルーブル美術館所蔵。(Wikipedia「ケルベロス」)

以上、ヘラクレスの12の功業でした。
この他にも、ヘラクレスは、さまざまな戦いや冒険をしています。
その紹介は、またの機会に!

※神々の名前などの表記は、『アリオン』での表記に準じています。

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